優しくなった君



「っひゃー。ケッコー人居るね」
「ウザいぐらいですね」

ツナと獄寺、そして山本は、近くの町で開かれている祭に来ていた。

「たこ焼き食いてーなー」
「俺はチョコバナナ食べたい!」
「チョコバナナ…!」

ツナのチョコバナナを食べたい、という発言に獄寺は思わずゴクリ、と喉を鳴らした。
という事実に、ツナも山本も気付いていない。

「十代目! 俺チョコバナナ買ってきます!」
「えぇ!? 良いよ大丈夫ー…ってあーぁ。行っちゃった」

ツナが制止するのも聞かず、獄寺はチョコバナナを求め人ゴミに消えてしまった。

「ホント獄寺って、ツナのコト好きなのなー」
「好き…ねぇ」

好き、というよりも俺を尊敬してるとかそういうんじゃいないかな。
そうツナは思った。

「十代目ー!」
「早っ」

まだ人ゴミの中に消えてから数十秒しか経っていないにも関わらず、
片手にチョコバナナを持ちながら清々しく現れた獄寺に驚く二人。

「どうぞ! どうぞ頬張って下さい!」
「? うんありがと」

いやに満面の笑みで促すのを不審に思いながらも、ツナはチョコバナナを食べる。
獄寺がガン見している視線が気にはなるが…。

山本はその光景をほほえましくみているだけだった。

そうこうしている内に、段々日が暮れると共に人が多くなる。

「人ジャマっすねー。片付けます?」

片手にダイナマイトをちらつかせながら笑いかけてくる獄寺を、ツナは一生懸命説得した。

獄寺は、ツナの説得に応じて渋々ダイナマイトをしまったときだった。

「うわぁっ!?」
「ツナ!」
「十代目!」

ちょうどツナ達が進んでいた方向と逆方向でなにか行われるらしく、人がドッと流れて行った。
その流れに逆らえず、ツナは瞬く間に人の流れの中に消えてしまった。 

「十代目がっ! …っあの華奢なカラダゆえに、こんな人の流れにさえ逆らえない…
そんな十代目は俺がお守りしなければならなかったのに…!」
「探すぞ獄寺!」
「お前なんかに言われなくてもわかってらぁ!」

山本と獄寺は、ツナを探すタメに人の流れに入る。
だが、いくら探しても見つからない。

「携帯は?」
「圏外だ…」

山本が携帯のディスプレイを見ながら落胆した声で答えた。

「クソっ!」
「待てよ獄寺! おーい」

獄寺は耐え切れずに、一人でまた探しにいってしまった。

その頃のツナはなんとか流れから脱出し、人気の無いところに出ていた。

「うー…。なんでこんな目に…。とりあえず戻らなきゃな」

祭をやっている場所から離れたところに出たわけではないので、すぐに戻れる。

「ん?」

ふと、後ろにある草村から物音が聞こえた。
ガサガサ…と、次の瞬間。

「犬ー!?」

黒いブチがあるそれは、犬だった。首輪が無いので野犬だ。
おそらく、食べ物の匂いに釣られてきたのだろう。
低く唸りながら、ジリジリとツナに近づいてゆく。

「ちょ…おすわり! 待て!」

とりあえず命令してみるも、それを聞く筈もなく、ツナ目掛けて走り出してしまった。

「ひぃー!」

逃げ出そうとした瞬間。
野犬は、ツナと反対方向に走り去って行った。
それもそのはず。

「十代目! 大丈夫ですか!?」

ようやくツナを見つけた獄寺が、
落ちていたチョコバナナをツナの居る場所と反対方向に投げたから、
野犬は去っていったのだ。
しかも、普段ダイナマイトを投げまくっている獄寺の肩の力のお陰で、
野犬はもう戻ってこれなさそうな距離まで投げることができた。
もっとも、山本ほどではないけれど。
そしてその投げたチョコバナナは、ツナの食べていたチョコバナナだった。

「獄寺くん…!」
「十代目! 大丈夫でしたか!? お怪我は? それと…チョコバナナ、投げてしまってすいません…」
「大丈夫…。チョコバナナのこともも気にしてないけど…、ほんっとに怖かったぁ」

半ベソをかきながら、ツナは獄寺にしがみついていた。
獄寺はこのとき、今までにない幸福を感じたらしい。
そのまま勢いでツナを抱きしめようとしたが、
ツナが離れてしまったので、自然とかわされてしまった。

「早く戻らないと。山本待ってるんだよね?」
「そう…ですね…」

少し残念そうな獄寺を気にしながら、ツナは歩き出す。
すると、急に立ち止まりパッと後ろを振り返るツナ。
そして獄寺の手を握る。
途端に獄寺の顔は赤面していく。

「ホラ、早く」
「え…」
「え、じゃなくて。戻るよ」
「…はい!」

満面の笑みで返事をする獄寺に、ツナは笑った。

「獄寺君って優しくなったね」
「え? そっスか?」
「だって俺が犬に追いかけられてたときに、犬に怪我させない方法で俺から引き離してくれたじゃん」
「あ…あれは…」
「否定しなくて良いんだよ。獄寺君は優しくなったんだから」
「…はい」

俺が優しくなれたのは、貴方のお陰です。

そして二人方肩を並ばせて、歩いていった。
今度は、離れないように。
決して離れないように、力強く握り締めながら。

+ END +
***甘ったるいオマケ*** 祭りが終わった帰り道。 「そういえば十代目、あんな目に遭っても俺が買ったチョコバナナ、落とさないでいてくれたんですね」 「結果的には落としちゃったけどね」 「何でですか?」 「何でって…! そんなのに理由はいらないじゃん!」 夜の歩道に、2つの陰が並んで歩く。 「…嬉しかったから」 2つの陰のうちの、小さい方が呟いた。 「十代目? 今なにか言いましたか?」 大きいほうは、それを聞き返す。 「なんでもないっ!」 呟いた小さい陰は、走り出す。 「待って下さい十代目!」 大きい陰も、走り出す。 本当は聞こえてましたよ。 俺も、手、握ってもらえて嬉しかったです。 そして大きい影が小さい影に追いついて、そのまま2つの陰が重なり合って、1つになった。 ←Back