俺は男。
獄寺君も男。


駄目なんだよ。
この気持ちは。
この感情は。


幸せなこと



「獄寺くーん?」
俺は、放課後に獄寺君を探していた。

『すぐに行きますから、ちょっと玄関で待ってて下さい』

「すぐに…ってもう20分は待ってるよ」
だから俺はこうやって探しにきてるんだけど。

「あ」

見つけた。…でも、見つけたくなかった…。
女子と二人きりの獄寺くん。

「ここからじゃ良く聞こえない…」

見つけたのは、校舎の後ろ。
ここは、告白する場所に打ってつけ。
あの女子が、獄寺君に告白してるっていう事は一瞬で分かった。

「獄寺君…どう返事するんだろ」

まぁどうせ、振るに決まってるけど。
そんな、獄寺君のことをを好きな女子に失礼な事を思いながら、校舎の陰から二人のやりとりを見ていた。
やっぱり、少し不安だから。
OKするなんて事はないと思うけど、やっぱりちょっと不安。

「もう少し近づける」

二人の居るトコロは奥だったから、まだもうちょっと近づける。
バレないようにと、体勢を低くしながら近づく。
上手く校舎の陰に隠れて様子を伺う。
集中すると声が聞こえる。
意識を二人の会話に集中させる。

「…でも……! ちょ…待っ…」

途切れ途切れだけど聞こえる。
どうやら振られたらしい。
女子には失礼だけど、安心した。

「…俺…諦…て。好きな…いる…ら」

え!?
今…『好きな いる』って…。
その空白に当てはまる言葉なんて、容易に浮かんだ。
『好きな 人 いる』
そう、言ったんだ…。

「…そりゃあ獄寺君だって男だし、好きな人の一人くらい、居る、よね…」

俺は気付いたら、その場にうずくまって泣いていた。
だってそうだろ?
これは失恋じゃないか。
失恋して泣かない程、俺の心は強くないよ。

「…十代目、ですか?」

ハッとして顔をあげる。
そこにいたのは、獄寺君。
しまった、と思ったときにはもう遅くて。

「十代目!? 誰に泣かされたんですか!?」

本当に心配そうな顔をして俺の傍に駆け寄る。
そんな顔、しないでよ。
俺を泣かせたのは、君だよ。

「獄寺君」
「は…はい…」

ちょっと低い声で名前を呼んだら、しどろもどろしながら答えた。
俺は獄寺君の腕を掴んで、引っ張った。

「わ…っ」

唇と唇が触れ合いそうになった時、獄寺君は真っ赤になりながら俺を押した。
その反動で、俺は地面に腰を打った。

「…! すみません十代目…っ」

謝らないでよ。
今のはわざとなんだよ。
だから、君が謝ることないんだよ。

「…十代目!? 痛かったですか?」

獄寺君が焦りだしたのは、俺が泣き出したから。
泣き出す、って言っても、声を殺してただ涙を流してるだけ。

「…獄寺君」
「はい…っ」

怯えた声で返事をした。
俺に怒られるとか、思ってるのかな。

「好き」

そう俺が言った瞬間、獄寺君の目が見開かれた。
俺は走り出した。

「十代目!」

後ろの方で獄寺君が俺を呼んでるけど、振り返れない。
振り返ったら、きっと恥しくて死んじゃう。
今、俺、告白したんだ。
無意識に、知らず知らず告白してた。

「うわ…俺…っ」

きっと、気持ち悪がられた。
男が男を好きなんてさ。
それに、獄寺君には好きな人だっているのに。

けれど、彼は俺を追ってきた。

「何で…っ」

俺は追いつかれないように走る。
だけど、直ぐに追いつかれてしまって。

「十…代目」

息を切らせながら、俺の腕を掴んで離さない。

「さっきはごめん。忘れて…」

俺も息を切らせながら謝った。
そんなに長い距離を走ったわけじゃないのに、なんでこんなにも息切れが激しいのだろう。
俺は体力が無いから、こんなにも息切れが激しいのは分かる。
俺の場合はそんな理論で片付くけど、獄寺君も俺以上に息が切れている。

―なんで。

「ドキドキしてるんです…」
「!」

俺の心を見透かすような言葉に、驚いた。
だけど、この後の言葉の方が、もっと驚いた。

「俺も、十代目が好きだから…」

最初は、同情か何かかと思って、本気にしなかった。

「同情なんていらない!」
「同情なんかじゃない!」

いつもの獄寺君は、俺に対して敬語を使っているのだけれど、今は使わなかった。
言い切るように、必死に、俺に訴えたその言葉。

本当の言葉だって分かるのに、時間はかからなかった。

「本…当に?」
「嘘なんかつかないです」
「そうだね」

そして俺は、背伸びをしてキスをした。
といってもほっぺに。
ここがまだ校舎裏で良かった。
そう思いながら獄寺君を見ると、嬉しそうに笑っていた。
だから俺も笑った。

二人で笑いあった。
大好きな人と、笑いあった。

こんなにも、幸せなこと。


+ END +

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